4-1 理論研究系
国内評価委員会開催日:平成14年12月22日
委 員 北原 和夫 (国際基督教大理,教授) 樋渡 保秋 (金沢大理,教授) 諸熊 奎治 (エモリー大化,教授) 永瀬 茂 (分子研,教授) 中村 宏樹 (分子研,教授) 平田 文男 (分子研,教授)
岡崎 進 (岡機構・計算科学研究センター,教授) オブザーバ 岡本 祐幸 (分子研,助教授)
谷村 吉隆 (分子研,助教授) 米満 賢治 (分子研,助教授)
4-1-1 点検評価国内委員会の報告
(1)理論分子科学の日本における役割
分子科学における理論の重要性は今や言を待たず,化学,物理,そして生物をもカバーする広い領域で不可欠のも のとなって来ている。それにも拘わらず,依然として日本を代表する東京大学と東京工業大学の理学部化学科に理論 の講座が無いことは,実に憂うべき現象である。過去における本点検評価において,毎回の如く国内外の委員から指 摘されているにも拘わらず,依然として改善の兆候が見えない。更に,日本の理学部化学における理論の幅の狭さは, 欧米の化学科における理論家の占める割合を考えると,先進国と呼ばれる国として誠に恥ずかしいことと言わざるを 得ない。この様な現状の中で,分子研の理論研究系の役割は大変大きい。
(2)分子研理論研究系のあり方
理論研究系は,理論化学のグループとしては日本最大であり,化学と物理の出身者が入り混じるユニークな集団と して,上記の様な日本の状況の中で,独自の発展をし,活躍していると評価して頂いた。外国の研究者にもその存在 は高く評価されている。日本の大学の変革を切に望むものではあるが,それと同時に,分子研の理論系はなお一層の 拡大・発展を目指しても良いのではないかとの意見が多く出された。これからは,今まで以上に世界に目を向け,世 界の理論 C OEとしての発展を目指すべきであると。同時に,アジアの若手の育成に努力を傾けるべきである。一方, その為には,現実の様々な課題を克服する努力が必要である。残念ながら,依然として研究スタッフの数が少ない問 題,ポスドクや大学院生など若手を強く引き付けるだけの待遇と魅力の欠如の問題がある。総研大に入学するために 改めて入学料を支払わなくてはならないこと,大学の21世紀 C OE プログラムによるポスドク確保の影響,基盤研究所 に比べて総研大の知名度が低い問題等などがある。理論系スタッフの一層の切磋琢磨も必要であろう。
(3)計算科学研究センターについて
計算科学研究センターが統合バイオサイエンスセンターの設立と共に岡崎機構の共通施設と位置付けられたが,そ の歴史及び現状の利用者の実績から,分子科学における計算科学の拠点センターとしての役割と責務に何らの変更が 齎されるべきものではない。勿論,分子科学を基盤としたバイオサイエンスとの境界領域における計算科学を支援し ていくことも一つの重要な使命である。いずれにしろ,全国に跨る幅広い分子科学の一般利用者への支援と共に,先 端的な大規模計算を行う利用者の支援を両立させていくことが求められる。前者に対しては分子科学計算に関する幅
広いソフトの充実が必要であり,一方,後者については特別申請の枠組みを広げていく努力が必要であろう。いずれ にしろ,分子科学に特化した計算科学センターとしての発展が望まれ,その意味で世界のセンターを目指しても良い のではないであろうか。
(4)分子科学研究所の将来について
上記(2)でも述べたが,分子科学研究所は今や世界にあまねく知れ渡り,その知名度は抜群である。分子科学研究所 に招かれること,あるいは滞在することは,世界の分子科学者にとって箔のつく大変名誉なことと認識されるに至っ ている。その意味で,大学との連携を大切にして優れた人材を集め「高等学術研究機関」として益々発展すべきであ り,現在の国際的環境を一層高め世界の C OE となっていくことを願う。その為には,上でも述べた通り,色々な課題 を克服して行かねばならない。岡崎コンファレンスの正式復活,ポスドク制度の柔軟化,大学院生の無償奨学金制度 の確立(未来の科学を担う大学院生への生活支援が十分でないのは先進国として恥ずかしい限りである),内部昇進を 許さない分子研の人事制度の普及(大学の人事制度の改革が強く望まれる),真の C OE としての認知等など国がもっ と進んだ支援策を打ち出して欲しいものである。
4-1-2 国内委員の意見書
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分子科学研究所理論部門・電算機室は,日本の理論物理化学の中心として創設以来機能している。特に,分子研で 助手,助教授を経験した人々は,外の教育研究機関で活躍していることから,日本の理論物理化学をリードしてきて いると言える。理論化学と理論物理の境界領域を研究するところとしてユニークである。外部の大学となると,物理 学科か化学科となるので,教育する学生の傾向も異なり,また,同僚である教官の意識も,物理学科か化学科かによっ て違っているが,分子研ではそのバリアはない。欧米では普通であるのだが,統計力学,量子化学,原子分子物理な どは比較的隣り合わせの分野なのであるが,日本では分断されていた。そのような中で,分子研の存在意義は大変大 きいものがあり,現在では,大学でも,物理と化学のバリアは一般的に低くなってきているのではないだろうか。
人的交流
特に理論研究においては,人的交流は重要である。「分子科学研究所の概要」(「分子研リポート2001」p.45)による と,外国人研究者の数は,減少傾向にある。また,大学院生の数もトレンドとしては減少している。更なる活性化の ためには,特にアジア地域から優秀な若手研究者,大学院生を招聘して,世界の分子科学研究センターであって欲し い。アジア諸国でレクチャーを組織するなどして,積極的な若手のリクルート(広報)も行うと良いのではないか。
研究分野
現在の分野はバランスが取れていると思う。客員部門は,客員部門に来てくれる研究者のサバティカルとして常時 滞在できるように,早めに人事を決めておくのがよい。
「分子研リポート2001」にある岡本レポート(p.61–66)では,分子研が果してきた研究者の流動性について特記し ている。私も同感で大いに「分子研方式」を全国だけでなく,国際的にも広める必要がある。学術会議や学協会等で, もっと紹介されてよいと思う。教官のサバティカルについては,「行政的・教育的業務の免除」という意味でのサバティ
カルは意味があると思うが,長期に分子研を空けるよりは,分子研における交流の実を上げるほうがよいのではない か,と思う。
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理論研究4部門(内客員1部門)で分子科学の研究分野を網羅するのは不可能であろう。各部門の教授,助教授が 独立して研究を行なうスタイルを実行していることを考慮すれば研究分野の数は倍程度となる反面,各研究グループ が小規模になる欠点を合わせ持つことになる。教授と助教授が協力して実質一つのグループを形成し,より大規模な 運営の下でプロジェクト研究を遂行できる選択肢もあってもよいのではないかという気がしないわけでもない。現状 でその必要性がないのであれば特段検討することはないのかも知れないが,今後の将来計画の議論の際にでも参考に して貰えればよい。
分子科学に関する教育,研究を行なっている場所が日本の大学に極めて少ない現状の話(訴え)があったが,そう であるならば由々しき事態であるといわなければならない。皮肉にも,この事実がかえって分子科学研究所の存在す る必要性を高めるのには役にたつのかも知れないが,事はそれほど単純でなかろう。分子科学は物理学と化学に密接 に関連しており,また近年では分子生物学とも密接に関連する境界領域の学問であることは多くの自然科学の研究者 が認めるところであろう。境界領域の学問分野であるが故に分子科学の研究者(研究場所)がわが国に少ない現状の 歴史的な根拠はわからないでもないが,分子科学は一方で自然(物質)科学の根幹を支える学問分野であり,現在わ が国の科学技術基本計画の主要な研究分野であるナノ科学やライフサイエンスなどにも直接関連する重要な学問分野 であることを考えるとこのようなわが国の国立大学の教育研究体制は改善されるべきである。大学と分子科学研究所 の両サイドから真剣な取り組みが待たれる。
b) 研究者の研究活動
「分子研リポート2001,現状・評価・将来計画」に記載されている各研究者の研究活動から見て,各々の分野におい て世界に通ずる研究業績がでていることは間違いない。評価委員会では,個別評価の時間は設けられなかったが,本 リポートでも十分そのことは伺い知れる。勿論,研究には十分ということは存在しないのであるから,更に上,上へ の研究を目指すことは必要であることは言うまでもない。研究所の使命である世界第1線の研究業績をあげるため最 善を期待したい。分子科学研究所(理論系)の特長が明確になっているのかなっていないのか,言い方を変えると,研 究所(理論系)としての先付けの研究目標(ミッション)があって,それに向けての研究なのか,それとも研究者の 個人個人の裁量により方向を決め,結果だけで評価を行なうのか,このいずれであるかが不明である(多分後者であ ると推察するが)。理論系全体についての研究目標もすべきところは明確にする姿勢を期待したい。
c ) 研究所全体について
ポストドクの確保について:国立大学および他の研究機関においてもポストドクの定員が大幅に増えつつある現状を 考えると,今後は優秀なポストドクを確保するための新たな仕掛け(戦略)が必要であろう。それらは,研究条件で あるとか,経済的条件であるとか,が考えられるが,やはり一番の決めては,分子科学研究所の有する研究のポテン シャルの高さを示すことであろう。ポストドクの満了後,望むようなところに就職できる可能性の高いところ(大学, 研究所)に彼らの多くは必ず集まってくる筈である。ポストドク生もちろん日本人に限った話でもない。大いに優秀 な(熱意のある)外国人ポストドクを採用したらよい。
大学院(総研大)生の確保について:ポストドクと同様,国立大学の大学院定員が大学院重点化政策後大幅に増えた
結果,全国規模で大学院生の確保が難しくなってきている。分子科学研究所においても大学院生の確保については今 後相当厳しいと予想される。ただし,留学生は別であるので,こちらに積極的になるのはよいかも知れない。いずれ にしても,大学院生が学位取得後に研究する場所の問題として,分子科学研究者のニーズを増やす積極的な運動は必 要な気がする。この問題を度外視して安定した研究所の将来像をもつことは不可能な気がする。
d)計算科学研究センターについて
今日,既に,いずれの計算センターにおいても計算機の資源を提供(共同利用)する役割(サービス)が主任務で あった時代から現在大きく変わりつつある。計算センターの役割がハードよりの研究者支援からソフトよりの研究者 支援へ転換する必要がある。このためには,ソフト(プログラム)の移植のみならず,それを使った研究(シミュレー ション研究)をはじめソフトの利用に関する技術支援,また並列計算などの計算機技術支援が必須である。これらの 研究者の確保を強く期待したい。
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理論系には中村,谷村,永瀬,岡本,平田,米満の教授・助教授が,センターには岡崎教授がそれぞれ研究グルー プを作って活躍しており,センター助教授は公募中である。研究者(教授・助教授,助手,技官,国内外からの各種 のポストドク,外国人客員教授・研究員,大学院生,その他)の総数は40余名で,これだけの専門の異なる分子科学 理論研究者が数多く集まっている集団は,国内はもとより世界的にも例を見ない。研究のレベルは極めて高い。評価 委員会の議論は中村主幹によって別途まとめられるとのことなので,ここでは私個人のいくつかの提案について述べ たい。
過去の分子科学の歴史からも予想されるように,分子科学における理論の果たす役割は今後益々大きくなるものと 考えられる。世界的にもトップの分子科学の研究所として,早急に分子研の理論研究を一層充実させる必要がある。現 在分子研の理論研究グループの数は全体の約20%程度である。アメリカで研究のアクティビティの高い大学の化学教 室で理論の割合は10−20%であり,質の高い大学ほどこの割合が高いことを考えると,分子科学の専門研究所として の分子研での割合は,現在むしろ低いと言える。今後ますます広がっていく分子科学の多くの領域をカバーするため にも,また重点領域の研究を集中的に推進するためにも,理論研究グループの拡充が望まれる。
これは理論系に限った事ではないが,分子研では研究グループあたりの研究者の数が少なく,それが十分な活動を 妨げている事は従来から指摘されてきた。現在理論研究グループあたり研究者6名と言うのは,以前よりはやや改良 されたとは言えまだ十分ではない。積極的にこれを増やす方策が求められる。その対策の一つとして外国の研究者や 大学院学生を集中的に採用することが考えられる。今や世界的評判の高い分子研に来たいと言うポストドクや院生は 沢山いると思われる。むしろ世界の頭脳を活用して研究を推進すると考えてはどうか? 最近はいろいろな研究費で 外国人ポストドクを雇う事ができるようになったが,これを積極的に活用してほしい。また,研究所としても対策を 考えてほしい。博士課程大学院生に生活可能な給料を出すことは今や世界の常識であり,国内はもとより外国人大学 院生にも当然これが必要である。これも研究所としての対応が欲しい。
もう一つ,理論研究系と計算科学研究センターで協力して,アジアの各国との積極的な協力体制を作ってみたらど うか。今や,中国,台湾,韓国はもとより,タイ,シンガポールなど多くの国で,分子科学理論研究は年々盛んにな りつつある。世界的にも最も充実した分子研の計算施設と専門能力をアジアの各国に解放して,共同研究者の受け入 れ,ワークショップやシンポジウムの開催,スーパーコンピュータの利用,大学院生の受け入れを行い,いわば“ ア ジア” のセンターとして,アジアでの分子科学理論の発展に寄与してほしい。
計算科学研究センターについては,現在岡崎国立共同研究機構の共通施設となっているが,超大型計算機は分子科 学の最も重要な“ 実験装置” の一つであり,計算科学は分子科学の最も基本的な研究分野である事を考えると,出来 る事なら分子科学研究所に直属した方が好ましいと考えられる。
最後にごく個人的な感想だが,現在分子研理論系で電子状態理論計算(量子化学)のウェイトがやや少ないと思う。 量子化学は分子科学理論の基礎であり,この分野が充実すれば,有機化学,無機化学,触媒化学,材料化学,生物分 子科学など理論研究者の協力を必要としている“ 化学” 全体により大きなインパクトを与えられると期待される。